アップルが「新しいiPad」という名前を付けた理由

明日2012年3月16日、新しいiPadが発売される。先週3月7日にAppleから発表されたものは「The new iPad(新しいiPad)」。「iPad3」でもなければ、「iPad HD」でも「iPad LTE」でもない。その後ティム・クックCEOの口から別の製品名が告げられることはなかった。アップルはあっけなくナンバリング方式を止めてしまった。

その理由について、プロダクトマーケティングを担う副社長シラーは言う。「予想通りにしたくなかった」。答えはただそれだけだった。「新しいiPad」という名前について、日本ではあまり指摘されることもなかったが、米国メディアでは多くの議論が飛び交った。にも関わらずアップルから出てきた答えはそれだけだった。

the-new-ipad

ただ “iPad” という名前

このシンプルな名前はiPadに始まったことではない。

2005年に発表したIntelプロセッサへの移行に伴い、アップルの製品は、 iMac、MacBook、MacBook Pro、MacBook Air と、ほとんどの製品がシンプルな名前に切り替わっている。

それだけではない。iPod touch、Time Capsuleにもナンバーは付いていない。ナンバリングされているのはiPhoneとiPad、それとソフトウェアだけだ。

進化を訴えるナンバリング

スティーブ・ジョブズは現状維持を好まなかった。常に現状を破壊し、新しいテクノロジーを求め、それを高性能なハードウェアに実装し、新製品として投入した。

そしてそれをナンバリングという形で消費者に訴えた。ところがある領域まで到達すると、ジョブズはそのナンバリングをも殺してしまう。

MacBook Airよりもスペックの高い機器はいくらでも存在するが、MacBook Airはどの機器よりも速いと感じる。数秒で起動し、操作が限りなくシンプルになったMacBook Airのスペックを気にする消費者はもういない。

スペックは退屈だ。一部のハイテク好きは今もスペックを取り上げて一喜一憂するが、消費者は違う。世の中にすでにある製品を選ぶとき、消費者はスペックのことなど気にしないのだ。

新しいiPadには、高解像度なディスプレイと高速な通信が実装され、進化したiOSとiCloudを思うがままに楽しむことができる。もうナンバリングで訴える必要はなくなった。

「予想通りにしたくない」

シラーの冗談めかした答えを聞いたらジョブズは喜んだだろう。 そのシンプルな名前そのものだけでなく、それ以上にその背後にある決定に意味がある。

アップルという会社の機密主義はあまりにも有名な話だが、それを維持することは容易ではない。無数のジャーナリスト、メディアが、新しい製品の情報を目撃しようと目を光らせている。おそらく彼らは従業員に名前をリークしたが、最後に皆をだますことにした。

名前を決めずにリリースする究極の悪戯だ。

ジョブズは悪戯が好きだった。アップルファンは、新しいiPadの名前がなく、モデルナンバーもなく、伝統にない、といったらヤキモキするだろう。でもそれこそがジョブズがしたかったことだ。

ジョブズは「現状」というものが嫌いだ。

アップルが産み出したテクノロジーは、新しい分野を形成してきた。そして、その業界では毎月のように新しいナンバーのモデルが登場し、その業界で新たな「現状」が作られる。まるで機械仕掛けのように。予想通りに。そうなることをアップルは望んだ。

そしてアップルは新しいiPadの名前を消した。創業者の満面の笑みを思い浮かべながら、悪戯をした。アップル社は、「伝統を破壊する」という会社の伝統に忠実であり続けたのだ。

ジョブズは誇りに思うだろう。アップルという、ガレージでたった2人で始めた会社が、今では世界で最も大きく最も価値のある会社になっても尚、反抗心の塊によって運営されているということを。

Thanks:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です